B型肝炎は主に血液・性行為を介して感染する疾患です。成人が感染した場合は、一部劇症肝炎という極めて重篤な状態になる例はあるものの、90%以上は一過性感染で、肝炎症状を呈するにせよ呈さない(これを不顕性感染と呼びます)にせよ、治癒してウィルスは身体から排除されます(微量のウィルスは肝臓に残ります)。
ところが小児期、特に3歳以下で感染した場合は、急性肝炎症状を呈さずにウィルスが身体に居座り続ける持続感染が起こりやすいのです。この状態をキャリアと呼びます。
キャリアの方の大半は何もなく過ごされるのですが、10〜15%の方は慢性肝炎を発症して肝硬変・肝癌へと進行します。また、キャリアの母親から出生した赤ちゃんは、何もしなければ高頻度でキャリアになります。
日本では諸外国に比べて患者が少ないこともあり、母子感染を予防することでこの疾患を撲滅できると考えられてきました。そのためキャリアの母親から生まれた赤ちゃんに対してのみ、ワクチンを含む重点的な治療を行ってきたのですが、この方法ではB型肝炎を撲滅できないことが分かってきました。その理由は、
@涙や唾液を介しても感染する。
保育園での集団感染の事例もあり、日常生活の中でも感染は起こりうることになります。
A新しいウィルスタイプが増加した。
従来日本で多かった遺伝子型Cのウィルスは成人期以降の感染では一過性感染で終わることが多いのに対し、近年キャリア化を起こしやすい遺伝子型Aのウィルスが性行為感染症として欧米から持ち込まれて急増しました。
この様な背景があって、B型肝炎ワクチンが定期予防接種化されています。公費接種の詳細は以下の通りです。
1)対象
平成28年4月1日以降出生の1歳未満児。
2)接種方法・間隔
3回接種。1回目(標準2カ月)から4週間以上の間隔で2回目接種(標準3か月)。3回目は1回目から20週間以上の間隔で接種(標準7〜8か月)。
公費接種対象外で積極的に接種をお薦めするのは、身近にキャリアの方がいらっしゃる方・海外に長期滞在される方ですが、その他の方々もやっておいて損のないワクチンです。特に保育園に行かれる小さいお子さん(保育園では接触が密なので)・思春期を迎える方(性行為感染の怖れ)は接種を考慮していただきたいと思います。
ワクチンはすべての年齢で接種可能です。免疫の持続は5〜10年といわれており、以降は追加接種が必要との報告もありますが、現状では決まった方法はありません。当院での自費接種費用は1回あたり6千円となります。
最後に、ここまでの記述をご覧になって、いつB型肝炎になってもおかしくないとお考えになる方もいらっしゃるかもしれないので付け加えておきますが、家族のような密な関係でない限り、キャリアの方から日常の接触で感染することはないことを強調しておきます。